大鳥の献立

みんなで搗こう、ゴボッパ餅|三浦弘堯さん、キヨセさん、一喜さん

25年ほど前のこと。お正月に家族でおじいちゃんの家に遊びに行った時に家族・親戚が集まって餅つきをしたことがあった。おっきい土間で男手が重たい杵をつき、おばあちゃんが臼の餅をかえし、女手と子供たちが餅を丸め、みんなで食べた。幼子ながら、大人が響かせる臼と杵の調子に興奮して大はしゃぎした記憶がある。そう遠くもない昔、どこの田舎にもそういう風景があったのだろう。時は流れ、現代は『もちつき機』が主役となっている。全ての作業を一人でこなすことができ、子供や孫に餅を送りたいおじいちゃん・おばあちゃんの家に重宝されている。一方で、“みんなの餅つき”を見ることは少なくなった。

年の瀬が近づくと、大鳥の家々でも餅つきが始まる。白餅、栃餅、“ゴボッパ”餅の3種類をつく。ゴボッパは『オヤマボクチ』の草のことで、一緒につくとコシのある餅になるそうだ。ところが、ヨモギみたく“どこにでも”生えているわけではなく奥山から採ってこなければならず、今ではほとんどの家がヨモギ餅になってしまった。そんな中、寿岡集落の三浦弘堯さん、キヨセさんご夫婦は今年もゴボッパ餅をついている。

初夏に山々を駆け巡って採ってきたゴボッパは、束ねて陰干しにする。正月が近くなると、干したゴボッパを灰汁水で煮て、アクが抜けたら棒で叩き、汁を絞って、いよいよ餅つきが始まる。

今年の三浦家は、ご夫婦に加えて息子の一喜さんが手伝いにきていて、少しにぎやか。一喜さんのお孫さんがもうすぐ1歳になるということで、背負わせるための餅つきに来たそうだ。丸めた餅が大きいとか小さいとか。あんこを入れ過ぎとかこれでいいんだとか。「ゴボッパ餅を食べるとずなくなる(=丈夫になる)んだ。」とか。手も口も動かして、2升があっという間に餅になっていった。艶々した深緑色のゴボッパ餅を、きな粉やあんこにつけて、美味しくいただいた。

ほかにも色々な話を聞かせてもらった。戦時中に焼き畑で育てた小豆で作ったあんこが甘くておいしかったこと。おばあさんが教えてくれた俳句が心に残ったこと。富山の薬売りから勉強を教えてもらったこと。毛皮の商人が泊まりにきたこと…。どこか雑っぽい親子の会話に挟まれたことがかえって、昔の囲炉裏端のようで心地よかった。年月が経ってもこの日のことをまた思い返しそうな、雪の少ない冬の日。

取材日:2019年12月27日 撮影/文章:田口比呂貴

 

ゴボッパ餅の作り方

ゴボッパの下準備

1.春~初夏にゴボッパ(オヤマボクチ)の葉を採取し、陰干しする。

2.餅つき前、干したゴボッパを灰汁水で煮る。

3.葉を叩いて、スジを取り除く

※正月前が忙しくて下処理に手が回らない場合、アク抜きをしたゴボッパを平たく丸めて冷凍庫に保管しておく。

 

材料

  • ゴボッパ(ソフトボール1つ分くらい)
  • もち米 一升

作り方

1.ゴボッパを自然解凍し、水分を手で絞り、ソフトボール1つ分くらいの量に分ける。

2.もち米1升をふかし、餅搗き機にもち米と、ゴボッパを入れて搗く。

3.ついたモチをちぎって丸める。

※餅を丸めるとき、小麦粉を軽く付けるとくっ付きにくくてやりやすい。

※ゴボッパ餅は、あんこやきな粉につけて食べるのが大鳥流。