大鳥のこと

彫刻家/詩作家 嶋尾和夫さん。vol.2 ―人間としての多様性と、生物としての多様性、というお話。―

大鳥に移住して20年以上が経ったという嶋尾和夫さん。福岡県で生まれ、高校生からは東京で過ごしてきたが、大学生の時に遭遇した学生運動の雰囲気の中で、「自分とは何か…。」ということを強く意識するようになったそうです。大学にいる意義を見出せなくなって中退し、コーヒー屋や町工場で働きながら詩作活動を続けてきた。この頃から数多くの文学・映画・美術作品に触れ、四十歳を過ぎた頃に奈良の仏像彫刻を見て彫刻家を志し、現在のアトリエである山形県鶴岡市大鳥地域へと移住。年に数回、個展を開催する傍ら、地域の農作業や屋根の雪下ろしを手伝っている。

本記事の内容は、嶋尾さんの知識・経験からくる哲学的な意見の数々に凝縮しているが、実際の会話は、お風呂場でキャッキャとはしゃぐ親子のように弾んでいました。インタビューしたのは2018年5月10日、6月3日、6月13日。

- 聞き手:田口 比呂貴   写真提供:三浦一喜

人間としての多様性と、生物としての多様性。

それで、話は変わるけど、僕この頃思うのはさ。男女の関係でね、本来なら自分と異質な人と直に関わっていかなければいけないのに、現代だとお互い会ったことなくてもある程度の話ができたりして、テクノロジーに頼ってっから、人間関係の一番基本である異性関係がわかんなくなってる。だからね、連日セクハラ報道ばっかり。あれはさ、男と女っていうのはどういう関係で肉体的なことや精神的なことで結ばれるかっていうのを知らないわけよ。

男性と女性は性が全く違うじゃない。男は年中発情してるけど、女の人はそうでもないわけよ。その辺の違いもあるだろうし。そして、その中で育まなきゃいけないんじゃない?好きってことを。これから一緒に暮らすとか、これから一緒に恋人になろうとか。それが良ければ夫婦になるかもしれないし。そういう愛するっていうか、恋愛のことは非常に重要だしね。人間関係の中で切っても切り離せない。それがね、わからなくなってるんじゃないかなって思うわけよ。そういう基本的な事まではテクノロジーは教えてくれないしさ。

 

―各個人の経済状況も含め、理性で制御し過ぎている感はあるかもですね。

今はいろんな生き方があるっていうことでね、結婚しない人も多くて。結婚する人も、ある一部になってしまってさ。いろんな分類があってそれが多様性だ!ってね。そう言われればそうかもしれないけれど、生物としてそんな多様性があってどうすんだって思うわけよ。それ、おかしい。だって当たり前じゃない。男と女が…、そうやって歴史って作られてきたんだしね。そりゃ結婚は自由だし、ずっと一人でもいいじゃない。本人がそれでいいんだからって。それで少子化になって、それが時代の流れならそれはそれで…、とも思うけど、なんか、生物とか動物ってことで人間の基本を考えたらやっぱりなんか変だなって思うわけよ。えー、誰も好きにならないのかなって。

なんか、男女関係がおかしくなってるようで、すぐ「セクハラだ」って言われたり。まぁ勿論そういうこともあるけどね。けど、なんか…。かえって報道が世に出るから、女性との関わりを持つのが昔以上に大変っていうのもあるだろうね。そんなことにさ、エネルギーを使うの疲れるから。ってなってしまうよね。

 

―そういえば最近、会社で打合せをするのに、密室の会議室で部下の女性社員と二人きりになるとそれがパワハラだかセクハラになるとかって報道されてました。そういうのが全国放送されたりすると、誰だって守りたくなりますよね、自分のこと。

それと、#ME  TOOだっけか。新聞にいつも出てるよ。あれはアメリカだよね。女優に対してプロデューサーがなんかそういうのでやったって。確かに、男尊女卑っていうかさ、そういうのは根強いからね。それは本人にとっちゃ大変なことだからね。あと、性の問題も。男として生まれたけど、あたしは女だ、とか。あと女として生まれたけど、俺は男だ、とか。性同一障害。それで女になったり男になったりする人もいるよね。僕はどっちも好き。

 

―何年か前ですけど、渋谷区でも同性婚を認めるようになりましたね。

アメリカだと早いよね。同性愛の知事が出たわけだからね。だから、そういういろんなカップルがいて、認められて。今までにないようなね。そういう多様性ならわかるけどさ。付き合わない人がいて、誰も結婚しない人がいて、結婚する人は1/3でっていうのは、生物としては多様性って言えるかなって思うよね。

あと、障害者っていうか体の不自由な人が今まで優生学って。優生保護法って、奇形児とか障害の人が生まれるので障害者の女性は子供生まれないように手術されてきたわけよ。つい最近まであったんだよ。今それが大問題になってっけどさ。それ、戦後の国の政策なの。それはね、世界でもあったんだって。

 

― 人として生きる人権を、国がなんの判別かわからんけど排除したってことですよね。

ひとつにはね、戦後の人口増があったわけよ。減らさなきゃってことで、犠牲に…。誰も知らないよね。知らないっていうか。当事者は大変な問題だったんだろうけど。あと、アイヌだって土人法とかね。

 

―昭和にはそういうものを切り捨てても富国強兵や経済成長を優先させるために、普通の人はいいけど、そうじゃない人は生産性がないから排除しましょうっていうのが暗黙の中で了解だったってことですか。

そうだね。それで今は逆にさ、調べてるじゃん。生まれる前に男か女か。正常か…正常っていうのもおかしいけどさ。それも逆の意味での排除だよね。「あなたのお子さん、障害ありますよ」ってことになって、「それでもよろしいですか?」って。「じゃあ今回は諦めます」とかなってくると。もう操作できるわけよ。

 

―うー…。大昔に比べれば、障害を持つ人も社会生活しやすくなっているんでしょうけど。配慮も含めてまだまだなんでしょうね。

社会的に障害者って言われている人も同じ一員だって社会になっていれば産む方も問題ないわけよ。生まれたとしても社会に適用できるようにシステムがあるならばどんな人間だって、自分のかけがえのない子供だってことで「人生は生まれてきてもあるよ」って両親は言えるからね。

 

―義足とか義手みたいに、障害を障害とあまり感じさせなくなるような技術も少しずつ進んでるんでしょけどね…。今は難聴な人が音を体で感じられるようなテクノロジー、機械が開発されてるみたいですよ。

それはいい問題提起だね。例えばさ、僕たち耳で音楽を当たり前のように聴いてるから音楽祭を開いているけどさ、いくら開いたって聴こえない人がいるんだよね。どうしようかってことになるよね、その人たち連れてきたって。音楽は当たり前に聴けるものって思っていたけど、聴こえない人のこと考えてなかったよね。

 

―今後はそういう視点も意識しながら音楽祭もやっていければいいですね。

そうだね。大鳥音楽祭もそういう場に。人と人が出会う、交流の場に。

 

本当の芸術家の仕事の始まり。そして新しい秩序の時代へ

音楽も芸術も商品経済の枠の中に入ってっからさ。そこが行き詰ってる原因でもあるし、それが成り立ってる原因でもあるけど。そんなんで次の時代は開けないだろうって。そこから自由になってこそ初めて次の世界を開けるものが…。だから、あえて大鳥音楽祭が次の時代を開けるだろうって思い込んで…。笑

 

―次の時代っていうのはどういう時代ですか?

今で収めきれない新しい秩序っていうか。例えば今はカネカネで何でも作れるって秩序じゃない。そういうもの関わりなしに、作っていこうって。“生き甲斐”って言ってしまえばそれまでだけど、やっぱ生きる理想がね。向かっていけるものがなければ、人間ってものすごく悲惨な動物だと思うよ。そこはやっぱり動物とちょっと違うとこだよね。動物はもう与えられた命を一生懸命働いて生きて、子孫を残していく。その使命だからね、自然を作っていくっていうか。まぁ人類もそうなんだけど、人類はその中で自分なりに違う生き甲斐を掴んだり、理想を持ったりして生きていかなきゃ。衣食住だけで、っては難しい動物だよね。衣食住だけでは満ち足りないんだから。せっかくそういうもの与えられてさ、戦争ばっかりして相手をさげすんでばっかりしていたんじゃ、何それ。必要ない。今だから、そういう原点を、根源的なものを考えなきゃいけない時代になってるからさ。

 

―その時代時代で世の哲学者とかもそういうことを考えてきたんですかね。

だから本当に、芸術家の仕事が始まったじゃないかって思うけどね。今まで作って感動を与えて、お金も入ってきたけど。それで芸術家として自立して、みんなと同じように生活できて、社会の一つの職業っつーか。拠って立つその人の生活があったけども。こういう時代に初めて。だからさ、本当に『人間とは何か?』って問えるものというか。問わなきゃこのままズルズル…。まぁそれ考える事って金にもなんないしさ、全然。あえて問うっていう人はなかなか…。ただそれを問う人がいないと、人類どこいくかわかんない。

 

―新しい秩序の兆しを感じることってありますか?

それはやっぱり、商品経済のシステムではないところで商売とか。「そういうの作っていこう!」っていう人はいるもんね。ひとつの共同体を作るのに、何を柱にするかで。例えば環境だったら「環境にあまり負荷をかけないような暮らしをやっていきましょう」っていうか。じゃあ燃料とかは木であり太陽光であり、それで電気とか。そういうので一つの共同体を作っていく。そういう暮らしで、そこに高い収入はほとんどない。それで共同体の、例えば”環境”って打ち出したら、そっからそれを中心に全てをやっていこう。だからリサイクルしていこうなるし、なるべく自然のものを食べましょう、とかね。そしたらそれこそ山の生活の知恵を借りて。お金だけで暮らさないで、まぁお金もある程度は必要だけども。自給自足じゃないにしても、そういうのが出てくるってことはやっぱり「人間の生活って何が一番いいんだろう?」って考えたんだと思うよね。自然と共に、壊すほどにはしないで、お互いが持続して共存できるって言うか。もちろん燃料のために木は切るかもしれないけど、植林したりしながら。全部が関係も考えないでやってるって事ではないけどね。生き延びるために石油ばっかり使ってたんじゃ…。

 

―大鳥にはそういう、これでいきましょうっていうのはあるんですかね?

暮らし。食は山、一番やってるよね。自分たちで作ったり採りに行ったり、保存食作ったり。それは一番、800年続いてるものだからね。

 

―衣食住にしかり、芸術にしかり、根っ子をみつめているところに音楽祭があるべきだと思いますね。

大鳥音楽祭はそういうところ広げていきたいよね。そこを土台にして音楽があったほうが。そうじゃなきゃ意味もない。普通のフェスティバルが考えないような、『ここで生きてる』『今を生きてる』っていうかね。そしたらいろんなことが考えられるし。いつかさ、ハカセの科学実験を音楽祭で一緒にできればと思ってる。

 

―いいですね。音が鳴るとバイオが動くみたいな。音に反応する染色体とか。笑

せっかく実行委員にハカセがいるのにさ。そういう実験を。結局自分のものを出せればいいと思うわけよ。料理の上手い人は料理。んで一喜くんは写真。美加さんは料理。「こういう音楽祭、ない」ってものになっていけばなぁって思うよね。大鳥音楽祭はおもしろくなると思うよ。時代を切り開けるよ。

 

―スタッフ全員、無報酬ですけどね。笑

だからこそできるわけよ。笑