大鳥の献立

栃餅つきと旅するお供え物 工藤定子さん

子供の頃、おじいちゃんの家で餅つきをしたことがある。大きな茅葺き屋根の下で、臼と杵でエンヤコラと力を合わせて搗いたお餅。亡き父が撮ったホームビデオには、土間に響くスコンッ!という音に興奮して走り回る幼き自分が映っていた。掘り炬燵でぬくもりながらお雑煮を食べた、お正月の思い出。

あれから25年。今年も大鳥に年の瀬が訪れる。かつてこの村では、漬物小屋から山菜や茸を引っ張り出して作る正月料理と、年中行事の準備をして過ごしてきた。現代ではそれに加えて、数十キロもの餅を搗くおばあちゃんたちの姿がある。繁岡集落に暮らす工藤定子さんもその一人。「おらいの餅搗きも見に来ればいいっちゃや。」とやさしく声を掛けてくれた。

案内された台所では蒸かす準備がされていた。「いいか、入れるぞ。」と、十分に煮立った蒸かし窯へもち米、その上に栃の実、そして最後にパラッともち米をかけて蓋をした。いいにおいがする。拾って、皮剝きをして、アク抜きをして…。定子さんが手間を重ねて処理した栃の実ともち米のあったかい香り。

蒸けたもち米と栃の実は、冷ますまいとすぐに”餅つき機”に移した。スイッチを入れると、ブーンという低い音と共にもち米がモコモコ動く。おもしくて眺めていると、もち米と栃の実が少しずつ混ざり合っていく。塊になってくると、ペタッ!ペタッ!ペタッ!と勢いよく回り、15~20分でツヤのある黄土色の栃餅が出来上がった。それを今度は、”もち切り機”に入れ替える。ハンドルを6回まわして餅を切り、手で餅の中心を軽く凹ませながら丸く整え、片栗粉を少しまぶして、お盆に置かれていく。寒い部屋で2日も乾かせば送れるようになるそうだ。

「昔はや、臼と杵で搗いたんだ。搗く人に返す人、餅が出来たらちぎって、丸めてな。お供えして、雑煮にしたりして食べたんだ。あと、里帰りに持っていったり、実家の餅をもらったりして。だども、大量には作らなかったな。みなそれぞれの家で搗くんだし。今は、人にあげたくて送ってるんだ。今年は全部で50箱になるかもしんねぇ…。」そう言う定子さんの家の奥座敷には、発送を控えた餅がずらりと並べられていた。

その後も、色んな話を聞かせてもらった。故郷がダムで沈んだこと、嫁いだ頃は食器を洗わずに棚へしまっていたこと、旦那さんがウサギを12羽も獲ってきた日のこと…。幼い記憶と、定子さんの餅搗き、どちらも雪が降り積もる日のことだった。

取材日:2018年12月26日  撮影/文章:田口比呂貴

栃餅の作り方

材料 (約30個分)

  • もち米 1升(1.4kg)
  • 栃の実 500g
  • 片栗粉

作り方

1.前日に1升(1.4kg)のもち米を一日水に浸し、ザルにあげ水を切っておく。

2.蒸かし鍋に水を入れて沸騰させる。

4.布を敷いた蒸し器にもち米と栃の実を入れて、最後に少しもち米を掛けて布で覆い、蓋をして30分間蒸かす。

5.蒸けたもち米と栃の実を餅つき機に入れ、スイッチを入れる。15~20分くらいで餅と栃の実がまざったキレイな茶色になる。

6.搗かれた餅はもち切り機に入れ替え、ハンドルを回しながら餅を切り、手のお腹で転がすように丸く成型する。

ポイント①:1個ごとに6回ハンドルを回すと調度いい大きさになる。(もち切り機のメーカーによって違う)

ポイント②:市販の薄いビニール手袋をすると手にくっつかなくて作業がしやすい。

ポイント③:餅は冷めると固くなるので、早めに成型を行う。

7.餅同士が引っ付かないよう少し片栗粉をかけ、ソネやお盆などに置いて2日間乾燥させる。

※お盆にサランラップを敷くと餅がくっつかないが、熱をもって乾きが遅くなる。

※乾燥後、長く保存する場合は冷凍庫に入れる。

 

<おまけ話>

大鳥には普通の白餅、ゴボッパで作る草餅、そして今回の栃餅の3種を搗いて、お正月を迎える。白餅はお供えされ、雑煮に入れる。草餅や栃餅は焼いて砂糖やきな粉、醤油で頂く。さらに、昔はワラビの根で作るわらび餅、葛の根で作る葛餅、松の皮で作る松皮餅、寒ざらしにして作る凍み餅、餅を砕いて焼いたあられ餅と、多様な餅が作られていた。

※ゴボッパ:オヤマボクチの葉。現在はヨモギを使う家が多い。