クルミ|胡桃
三浦勝子さんにクルミ採りに同行させて頂いた時のこと。この年は数年に一度の豊作の年で、木の下にはクルミが沢山おちていた。では早速…と、青々しい皮をしたクルミを黙々と拾っては腰テンゴに入れていく。30分もするとテンゴ一杯になり、車の荷台につけていたコンテナに移し替え、また拾いにいく。
友人・知人に配る分も含めて、2カゴ分くらい採った僕は満足して、手を止め、勝子さんの採集姿を写真に収めていると、
「来年採れるかわからないから、採れる時に沢山とらないとダメでしょ。」と言いながら、コンテナ・テンゴが一杯になるまで拾い続ける。
勝子さんに言われた通り次の年は不作で、樹の下の柴や草をかき分けてよくよく探さないとクルミが見つけられない。量も前年に比べると半分も採れなかった。
少し余談ですが、大鳥には十数年まで『二百十日(にひゃくとおか)』というクルミ採りの地域ルールがあった。9月になるまでは木になったクルミも、落ちたクルミも集落の人は採ってはいけなかった。9月を過ぎると、まだ木から落ちていないクルミも、特殊なサスマタのような道具で採っていた。現在ではこのルールはなくなっている。
クルミは採って帰ってくると、皮を腐らせるためにコンテナやビニール袋にいれて1週間~10日ほど野ざらしにする。
腐った皮を水で洗い流すと良く見るクルミの姿に。
これを天日で3日ほど乾燥させると、1年間はゆうに保存が効く。事実、豊作の年に勝子さんと一緒に採らせてもらったクルミは1年以上経つけれど、割ってみると実は普通に食べられる状態だった。
乾燥したクルミの殻を割って実を取り出すのは冬の仕事。
ある家では薪ストーブで、ある家ではフライパンでクルミを炒る。一昔前は囲炉裏だっただろう。
焦げ目が付かない程度に転がしながら炒っていると『ピキッ』と小さく音がして、殻の割れ目が開く。その隙間に包丁の刃先を入れたり、クルミ割り機を使ったりして半分に割る
割れたクルミは一つ一つ、アイスピックのような先の尖った刃物で一つ一つ、殻から実を取り出していく。
中には黒く腐ったような実や、ちゃんと実にならなかったものもあるので、良いモノだけを選別していく。炒って、割って、ほじくって、選別して。クルミの実を50g採るのに、1時間はかかる。骨が折れる作業だが、雪に囲まれ身動きが取れない冬にじっくり取り組む。剥かれた状態のクルミの実は日影・常温で3か月程度もつ。
野ネズミやリスなどの動物たちと競争しながら拾い上げたクルミは、時間と手間をかけてようやく食べれるようになる。春は山菜の青こごみにクルミ和えをしたり、クルミ寒天も作られる。