『残雪かんじきトレッキング体験』イベントレポート -硬雪の上ならどこまでも歩いていける。そんな気がする…-
先日、【イベント告知 3月4日(日)】雪が溶けて山が芽吹くとせわしい日々が押し寄せてくるから。その前にゆっくり、のんびり。『残雪かんじきトレッキング体験』と告知したイベントが無事終了。
鶴岡市内を中心に老若男女、20名近くの方々にお集まりいただきました。
本当にありがとうございました。
当日の様子をまとめてみましたので、参加した方もそうでない方も、ぜひご一読ください。
例年にない大雪に見舞われた東北も、3月に入ると天気も落ち着いてきました。イベント当日、大鳥周辺でも晴間が徐々に広がって、雪の硬さも歩くに丁度良さそう。
受付の9時半にもなると参加者が集まり始め、送迎バスも10時前には到着。定刻通りにイベントがスタートしました。主催である大鳥自然の家の佐藤征勝さんが、大鳥で暮らした昔の思い出を話してくれました。
「大鳥は12月から2月まではずーっと雪なんです。毎日のように雪が降って、それをどかしたり屋根から降ろしたりして過ごしています。それで、私が若い時なんて今から50年以上も前の話になりますけど、まだ道路除雪がなかったんです。そうなると、家の二階から出て、毎日階段を付けるのが子供の仕事でした。どこへ行くにもかんじき履いて。電柱の線が腰のあたりにあるので、跨いで学校に行ったもんです。家も雪で大概埋まって、辺り一面がまっしろになる。それが3月になると雪も降らなくなって少しずつ温かくなってきて。雪も硬くなってポンポンって、どこへでも簡単に歩けるようになるんです。それが最高に気持ちいいんですよ。今は除雪もあって便利でとても良いですけど、あの時の爽快感って言うんですかね。忘れられないですね。」“北国の春”は、豪雪地域に暮らす人々にとっては格別な瞬間ですが、昔なんてなおさら…ですね。
挨拶が終わると、大鳥自然の家の前でかんじきを履いて雪山へと向かう。ムカデ競争のように列をなし、先頭の足跡を追いかけるように一歩一歩。先頭の人は少し足をとられながらも雪を踏み固め歩く。次の人は、踏み固めた上を歩いていく。後ろになればなるほど雪が踏み固まって歩きやすくなる。雪山を複数人で歩くときは、先頭を代わりがわりしながら歩くのが雪国育ちの常識。
ザク、ザク、ザク。雪の感触が、足元から体に伝わってくるのが気持ちいい。歩き始めるとすぐに、ブナ林が広がっていた。ブナの木の根に空いた穴を覗きこむと、歩いている場所より3mほど下に根元があって、今年の積雪がいかに深かったのかを教えてくれる。雪の上にはちっちゃな黒い虫もいた。大鳥で”ユキムシ”と呼ばれていて、春の訪れを知らせてくれるそうだ。木々の合間からは遠くの山々も、大鳥地域の家々もみえる。顎を引いて足元を確認しながら歩き、時おり止まって眺める景観も、参加者同士の会話も楽しい。蔓も草も葉もないこの季節の山はとっても歩きやすく、どこでも、どこまでも行けそうな気がする。
歩き始めて1時間がたった頃。今回の目的地である松平山の頂上についた。頂上は360°パノラマで、大鳥地域が一望できる。集落の形も、山のかたちも、川の流れもハッキリ見える。参加者の方々からも「キレイだねー。」「気持ちいいねー。」と声を掛け合っていたのが嬉しかった。ただ少し、風が強くて寒かったですね。記念に集合写真を撮ったら下山。帰りはルートを変え、雪がない頃は歩かないような急な斜面をお尻で滑ったり、駆け下りたり。童心にかえっているようでみな楽しそう。そのままブナ林に入ると、あっという間に大鳥自然の家に。
昼食は地元のおばあちゃんが作ってくれたヤマドリ汁とおにぎり。ヤマドリはキジの仲間で、冬は沢筋で羽を休めている姿を時たま見かけることができます。カモの上品な脂がのった汁とはまた違う、たん白な味わい。食べやすいのか、大鳥でも人気の狩猟鳥。イベントの参加者でも「初めて食べたよー」という人がほとんどで、喜んでくれていたみたいでした。
昼食後は、スタッフの田口から松平山に関わる歴史や民俗のお話。この日通った山道に、山の神を祀った神社があったこと、養蚕の石碑があったこと、戦国時代には頂上に小さなお城があったことなど。幾人もの先人が松平山を歩き、利用してきたことをご紹介させて頂きました。『目に映る景色の裏側には、地域の歴史があり、山を利用してきた人たちがいる。』そんなことが頭の片隅に残ってくれていたら嬉しく思います。
春は新緑が萌え、秋は紅葉で山が赤く燃え上がる。大鳥はこれからがいい季節。松平山のトレッキングコースは鶴岡市の「つるおか森の散歩道20選」にも指定されており、大鳥自然の家で管理をしています。もしわからないことがあれば大鳥自然の家にお気軽にお問合せください。
写真:三浦一喜(寿岡集落出身)