大鳥のこと

映画上映の後は対話と共感を。~彫刻家/大鳥音楽祭主宰 嶋尾和夫さんインタビュー~

大鳥音楽祭vol.4で上映した民俗文化映像研究所の『山に生かされた日々』を皮切りに、大鳥で映画熱が高まりつつある。先の6月には大鳥音楽祭にて澄川嘉彦監督作品の『タイマグラばあちゃん』を上映し、監督やタイマグラに暮らしていた青年も駆けつけてくれた。

2019年9月14日(土)にはシネマ倶楽部大鳥座と称し、大鳥自然の家にて小栗康平監督作品『泥の河』(105分)を上映予定だ。「埋もれかけている素晴らしい作品を次の世代の人にも観てもらいたい」という嶋尾和夫さんの願いが詰まった上映会となる。興味があれば、ぜひ観に来て欲しいです。上映前後には、交流会もあります。

「20世紀はジャズと映画の時代だよ。」と言うほど音楽と映画が好きな嶋尾さん。東京で出会った素晴らしい映画の数々を忘れぬようにとリストアップした紙を眺めながら、映画について語ってもらいました。

話を聞いた日:2019年5月10日 話を聞いた人:田口比呂貴

映画が教えてくれたこと

東京の時に観たものでね、大鳥に来てから、もう1回観ようって映画のリストを書いたの。かなり厳選して、だよ。というか、自分が覚えておかなきゃいけないと思って。

 

―かなりの本数を観てますね。

この辺が最初だね。86年か。ビクトルエリセの『ミツバチのささやき』じゃなくて、その次だね。で、次の年にグレゴリー・コージンツェフの『リア王』。小栗康平の『泥の河』も。フェデリコフェリーニ、ゴダール。タルコフスキーね。黒澤明の『どん底』。それと、89年、90年は…、エルマンノオルミ。あと、この『タンゴ ガルデルの亡命』。アルゼンチンの映画でフェルナンドソラナスという人で。何の予備知識もなく映画館で観て、「あー、タンゴっていい曲だなぁ。」と思って。で、バンドネオンの小川紀美代さんに聞いたわけよ。そしたら「観てないけれど、この映画知ってます。」って。「僕は観たよ!」って。笑

それに「狩人」って、劇映画ね。この監督のテオアンゲロプロスっていうのは、もう亡くなったけどもギリシャのすごい映画監督で。世界を動かすような人だね。ギリシャの歴史とかね!長時間の映画でね!

 

―嶋尾さん一押しの映画ってあるんですか?

『天井桟敷の人々』って作品。戦争中、フランスがナチスに侵略される、そういうところでマルセルカルネって映画人が撮影しているのよ。これ本当、奇跡のような映画なのね。その時のフランスのすべての映画人とか演劇者の粋(すい)を極めて、「よく作った!」っていう。戦争への抵抗の意味もあったんだろうね。内容もおもしろいわけよ。人々の喜怒哀楽。恋があり、争いがあり、民衆の息吹があり…。僕が今まで観てきた映画の中では1、2を争う。これも結構長いよ。一部と二部で3時間ぐらいあるかも。

 

―この作品で印象に残ったことはありますか?

フランスの映画人が抵抗のために全力を尽くした。ということを後から知って、「やっぱりすごいな!」と思ったんだよね。

 

―最初観た時に何か引っかかるものがあったという感じですか?

民衆の動きと、そこに散らばっている個々の主人公の声があり、葛藤があり。個人の物語と全体の物語が流れているっていう。大河小説じゃないけども、そういうものを表していたからね。「これは完璧じゃないの?!」って。「歴史とか社会とかがこんな風に流れていくんだよ。」っていうことを一つの作品で表すっていうのは…。

 

―リストにはこれだけありますけど、実際に観たのはこの倍3倍も…ってことですか?

そう。僕には文学の友達が一人だけいて。バンカ(嶋尾さんが東京にいた頃に働いていた喫茶店)にいる時にコーヒー飲みに来て、ちょっと話すようになって。ある時、彼が誘ってくれて小栗康平の『伽耶子のために』を一緒に観に行ったの。岩波ホールだったよ。彼は京都出身で慶應文学部か何かを出ていて。彼が永井荷風を教えてくれたし、映画のことを教えてくれたの。

 

彼に出会うまで、映画はそこまで影響を受けるものではなかったんですか?

そう。二十歳くらいの頃は周りの大学生と一緒に8mmとかで映像を撮っていたね。いろんな大学の人が集まって発表会やろうよって。フィルムに傷を入れてさ、観てると『ポンッ!』『ポンッ!』って。汽車が永遠に走ってるの。それと、編集で汽車を逆さまにしたりとかしてたね。笑 まぁ全くモノにはなってないけど。

 

―大学生の頃に観ていた映画はどんな作品がありますか?

その頃に観ていたのはアランドロンとかチャップリンとか。「チャップリン面白いな。映画撮りたいな。」って思っていたけどね。

 

―大鳥に来てから『もう一度観たい作品』は、観られたんですか?

大鳥に移るってことになったら「映画は観られないだろうな」っていうのは覚悟したよね。笑 うちにはテレビがないでしょ。それに僕の観たい映画はテレビでやらないもん!あー、そうそう。中島莞爾監督はビデオテープを撮ってタルコフスキーとか送ってくれたんだね。あまりにもテクノロジーの進歩が(早くて…)。

 

―今までは観られなかったけれど、2018年の大鳥音楽祭で『山に生かされた日々』の上映をやってみて、やれるんじゃないか…というところがあったんですかね。山形国際ドキュメンタリー映画祭創設の提唱者、小川紳介さんの長編映画『牧野村物語』とかも上映してみたいですね。

小川紳介でガーン!ってきてさ、動けなくなるかもしれない。「次の日は小川紳介を考えなきゃ!」みたいな。笑

 

―この前、東京の世田谷で映像の展示会を観てきたんですよ。展示映像の配給元がエンサイクロペディア・シネマ・ト・グラフィカってところ。世界中の民族の生活を映像記録する団体が第二次世界大戦の後にドイツで立ち上がって、民族の農作業とかお祭り、暮らしの記録映像が膨大に撮ってあるんですよ。その一部を観てきたんですけど、なんか、民族音楽の起源のようなものを感じました。やっぱり作業のリズムなんですよ。木槌を搗くリズムとか、臼を回すリズムの中で、「あ、これが音楽になって、これが神様への奉納の形へとなっていったんだなー。」って。そういうのも皆で観るに良いかなと思います。

この前、田口君が持ってきてくれた、民族文化映像研究所のリスト。あれにも観たいのが一杯あったよね。スペインのもあったよね。バスクの何とかって。まぁスペイン人だからうちの親父は。笑

 

―数々の良い作品を観てきて、感覚として自分に得られたことというか、影響を及ぼしたことってあるんですか?

そうね。それは芸術の力よ。「何言ってんだ!」とか、「しっかりしろ!」とか。芸術の力っていうのは救いであり、生きる力だからね。どん底でも「もう大丈夫だよ。」って、もっと酷いどん底を観せてくれて。「大丈夫だ、僕はここまでじゃなかったんだなぁ」とか…。次に生きる力に転化できる。

 

映画の後は対話と共感を

―今年の9月14日(土)には大鳥映画祭で小栗康平監督の『泥の河』を上映予定ですよね。観るだけならDVDで十分かと思うんですけど、上映を催すことの意味というか、何か伝えたいことがあるんですか?

なんて言うかさ。映画館に行くと、何百人もの単位で観ているわけだけど、結局暗いじゃない?暗い場所で映像だけが明るく見えている。そこに100人いたとしても、みんな個人とのやり取りなわけよ。そういうことが映画ってできるわけよね。「みんなで小説読みましょう。」ってわけじゃないのよね。それはじっくり読む人もいれば、もう読みました!って、それぞれよ。

映画は時間も決まっていて、個人と映画の対話でしかない。そこでどんなことを感じたか、というのは大勢で観ていてもそれぞれで、家路に帰るわけだね。そういうところでの共感。何でもそうだけど、芸術って一対一の作品と自分の対話であり、感じ方でしかないからね。

例えば、知らない人だとしても同じ映画を観たっていう人となら「あれはここが凄かったよね」って話せる。「私はこう思ったよ」とか「全然わかんねぇ、あれは。」っていうのもあるだろうし。作品を通して新たに共感が生まれる。私も観たんですよって。

 

―今の話を聞いて、百姓だなぁと思ったんですよね。昔はみんな同じように木枠を転がして田植えをしてたわけですよね。お隣の田んぼ、自分の田んぼと、ってそれぞれやりながらお互いの内面みたいなところも多少…。「今日は日差しがキツイね。」とか「土が固いね。」って話をしながら互いの状況を理解し合う。同じ状況の中で同じことをやって…、というのは同じですが、映画は捉え方の幅が広い。作風に依るんでしょうけども、「私はここがすごく感動した」とか、「ここは自分のこの経験を通してこんな風に感じられた」というのがみんな違う。それを話し合うことで広がる世界があるかもしれないし、自分が経験したことを重ねられる場になるのかなーと。

そう。だからね、大鳥でこういう作品を年に1回ぐらいやりだしたら、観終わった後に交流も出来るよね。ちょっとこう、討論するのも面白いんじゃないかな~と思って。口論もあるかもしれないけど。笑

そういうことは映画館ではやる必要もないし、次の上映もあるし。だから、終わった後に企画側がこれは「戦後の子供達の話です」とか「大人の男女関係でしたね」とか。で、まぁ「みなさんなにか…?」って言うと、いろんな意見が出てくるかもしれないよね。

 

―そういう展開も面白いかもしれませんね。

たぶんね、感じ方はそれぞれ違うかもしれないけど、そこに共通のものがあるはず。あるんだよ!

その…。観て感じたことは一人一人違うかもしれないけども、作品の訴えたいものを捉えて感じるわけだから、一つの作品の評価って言うか…。それができると思うわけよ。この映画は「これは人生の別れだ。」っていう簡単な一言でまとめられるけど、それだけじゃないかもしれない。人生の別れを表していたとしても、私はちょっと違うことを感じましたっていう人もいるかもしれない。それは作品が広がっていくっていうことだよね。監督も『ここで何が一番言いたいか』っていうのを出しているわけよね。何もなくて撮るわけないんだから。自分が一番訴えたいところを出せば、観る人もそこを感じるはずだよね。

一番評価を感じた所っていうのは一人一人違うけれども、一つのテーマが出てくるはずなんだね。「これは人生の別れだね」って。その上で「人間として生まれたら別れがあるって言う、そういうところを痛切に、でもそれは仕方がないから受け入れようっていう風に。」その辺を色んな話の中で、作品の核っていうものをみんなが掴めるかもしれないよね。

 

賛否両論くらいがちょうどいい

―この前『タイマグラばあちゃん』を観て、淡々と味噌作ってるシーンとかが良いなって思いつつ、「自然の中で暮らすのが美しい」みたいな印象に寄せている感じがしてリアリティを感じない、という話をしましたよね。ですけど、それはもしかしたら監督の主張であり、逆にそれを新鮮に受け取る人もいるだろうし。自分の経験や考えに照らし合わせて良い悪いを言っているだけであって、同じところに向かっているのかなって感じがしますね。

作品で賛否両論があって面白いと思うよ。やっぱそのぐらいの作品じゃなきゃね。はいはい、って皆が涙流してたら、ちょっとね…。「黒澤明のここはちょっと…」って、随分あると思うよ。僕もスペインで話したけど、スペイン人は黒澤明が好きなんだよね。だけど僕は溝口健二だよ、ってね。

 

―批判する人はいるんでしょうけど、中々そういうことが聞こえてこない作品の代表がジブリだと思ったんですよね。『風の谷のナウシカ』とか良いなって思うし。非の打ち所がないと言ったら変ですが…。

あのね、東京の”雲の下教室”では『ナウシカ』も『ラピュタ』も観ていてね。ある時、みんなで『もののけ姫』を観たわけよ。でも、あまり評価が…。僕もそうだけど、「あれ『ナウシカ』の焼き増しじゃん。」って。「こいつらなかなか観てるな」って思ったよね。だったらナウシカのほうがスゴイよねって。

※雲の下教室:嶋尾さんが東京に在住していた頃、よく遊んでいた近所の子供達とのグループ。

 

―僕は先に『もののけ姫』を観たのですが、「森とタタラ場、お互いに暮らせるような社会であって欲しい。」みたいな話とかね。後で観たナウシカでも、それはすごく感じた。

宮崎駿も詰まってきたのかなぁ…ってあの時思ったけどね。笑

 

―最近の作品は観れてないけど『ナウシカ』や『もののけ姫』を上回るものは出てないなって感じますね。

『千と千尋の神隠し』、うちの父親の葬式行った時に次の日、子供達がそれ観てたわけよ。じゃあ僕も、って観てさ。『千と千尋』、その後の新しい展開だなぁ!って思ったよ。何かいろんなものを取り入れて。宮沢賢治の世界と…。「駿さん『もののけ』で詰まったと思ったけど、やったじゃん!」って。

 

―そう言われてみれば…。よくわからないんですよね。トンネルに入るとお父さんとお母さんが豚になってみたり、名前を取られたり、温泉宿で働きながら青年と出会って、龍になって魔女と戦うみたいな…。よくわかんない。

イメージはすごいよね。宮崎駿はずっと現代批判はしてるよね。アニメで、すごいなー!って思ったよ。なんせスペインのロンダでも『となりのトトロ』やってたもんね。チラシみたら翌月で、僕は帰っちゃったけど。

 

第5回の大鳥音楽祭を迎えて

この前さ、共産党議員が訪ねてきたわけよ。で、「優生思想によって戦後にできた法律で男も女も障害者が不妊手術を強制させられて…。」って話をしたらさ、言葉は知っていたけど、中身を全然知らないわけよ。それが公になって、共産党も賛成して今やっと被害者を保障しようって法律ができたけども、一人300万円くらいの支給なのね。人生をさ…。しかも「本人が申請しろ」って感じなわけよ。共産党も赤旗新聞で「自分達もあの時優生保護法を国会で通してしまった…」っていうことで謝りを出してたけど、遅かったよ。毎日新聞で連日書いているのに赤旗は何週間も遅れて…。そういうことを全然知らないのよ。「あんた、選挙活動もいいけど帰って勉強して。」って。党の議員さんには広まってないのかなって驚いたよね。なんつーか、世界全体が一時、そういう(優生思想の)動きがあったよね。

 

―その時代の社会の雰囲気ですかね。

反対を貫いた人もいるかもしれないけども…まぁ、やることは色々あるけど、まずは大鳥音楽祭で。車椅子の人が来たら大変だよね。まだ階段だからね。ハカセ(伊藤卓朗さん)にRDDの参加者の人達にチラシ配ってもらおうよ。これからいろんな人達が来て。田口くんの友達のオカマちゃんも来て欲しいね。

※RDD:Rare Disease Day(世界希少・難病疾患の日) より良い診断や治療による希少・難治性疾患の患者さんの生活の質の向上を目指して、スウェーデンで2008年から始まった活動。

参考:RDD JAPAN https://rddjapan.info/2019/

 

―ところで、野暮な問いかけですが、嶋尾さんが亡くなった年は追悼祭をしなければいけないと思うんですけども、誰にしてもらいたいですか?笑 誰に演奏してもらいたいですか?笑

えーーー!笑

 

―礒見博さんは外せないと思うんですよ。

だって、どっちが先かわからないよ!笑

 

―あれ?礒見さんって何歳なんですか?

同じぐらい。

 

―そうだったんですか!じゃあ、そうか…。笑

追悼…。それは本場のフラメンコで。

 

―(大笑い)えー!今まで呼んだ人の中でお願いしたいんですけど。

必要ないよ、そんなこと!笑 自分がいないのに楽しめない。

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