大鳥の献立

春の山奥でのみ食された”ヘビタタキ”を喰らう。 伊藤まさみさん

大鳥に住み始めて3年目の夏頃だったと思う。地元の方から、「ヘビも昔は食べたもんだ。」という話を聞いて、自分で捕まえて食べてみるようになった。初めての調理は、皮を剥いてぶつ切りにし、酒と醤油で味付けして炒めただけの素朴なもの。骨が硬くてかなり食べにくかったが、味は鳥肉に近いと感じた。確か、シマヘビだったと思う。ヘビを食べた話を地元の人にすると記憶の引き出しが開いたのか、「山ではヘビをキリタンポみたいにして食べさせられたもんだ。」と教えてくれた。戦中/戦後を生きた人たちの資源の使い方には現代の生活に及ばぬたくましさがある。

今回、ヘビタタキの作り方を教えてくれたのは大鳥地区寿岡集落に暮らす伊藤まさみさん。1960年代、伊藤まさみさん一家はぜんまい山で生計を営んでいた。春、集落の雪が解けきった4月下旬~5月、村から何キロも離れた奥山にあるぜんまい小屋に一家で出掛け、7月中ごろまで泊まりがけで毎日ぜんまい採集に明け暮れ、干されたぜんまいを問屋へと販売して暮らしを支えた。小屋へは米と味噌、缶詰を背負っていったが、肉らしいものは無い。だからこそ、母が作ってくれたヘビタタキは大のご馳走だった。「ぜんまい小屋の山中には山菜は勿論、すぐ沢があって、岩魚いんなやな。だはけ、じぃさまがたまに岩魚釣ってきて喰ったり。母親は青大将を採ってきておいて、『ヘビタタキして喰わせっぞ。』って作ってくれたなや。頭をデーンと切って皮剥いて内臓は洗い流して。そして石の上に乗せてナタの裏で叩いて味噌さ混ぜてや。そして生木で棒作ってそれさ巻いて、キリタンポみたいにして炙って喰ったもんだ。」

母の手順をなぞって、娘の伊藤まさみさんとヘビタタキを作り、一緒に食べた。炭火で焼かれた焦げ目が香ばしく、ササミのようで美味しかった。潰しきれなかった骨が少し硬かったのと、後味で少し生臭さが残ったが、山でこそ食べられる贅沢なご馳走だった。

ヘビタタキは、伊藤まさみさんを含む奥山でぜんまい稼業を営む家々でのみ行われていた。「山では食べたが、里では食べなかった」と言うから、食料が満足にある村には伝わらなかったのかもしれない。しかし、大鳥にはニヘエダンゴ(仁平餅)という郷土食があった。うるち米を餅みたいに搗いて胡桃味噌と和えて食べたり、雑煮に入れたりして食べていた。それを「キリタンポのようなものだ」と称する地元の人の話から、『ヘビタタキの着想はこういった身近な料理から得られたのかな。』と考えてみると、主流を応用していく頭のしなやかさは、住み慣れた地から離れた世界で得られることもあることを教えてくれたような…。大げさだけど、そんな気がした。

※参考:縄文式住居を彷彿させる山奥地域の知・技の結晶、ぜんまい小屋。―草木資源で大鳥の人たちと小屋を建てる― |大鳥てんご

取材日:2019年8月19日 写真・文:田口比呂貴

ヘビタタキの作り方

材料(約4人分)

  • アオダイショウ:2匹
  • 味噌:100g程度

道具

  • ナタ or ハンマー。ミンサーがあれば便利。
  • 叩き台になりえる平たい石。もしくは丸太など。
  • 生木。1cmくらいの太さ(すり身状のヘビの身を巻きつける) ※取材時は竹串で代用
  • 炭、焚き付けの木っ端、ライターなど

作り方

1.アオダイショウを捕獲し、皮を剥いて内臓をとって洗う。

2.河原の石など、硬いものの上にアオダイショウを置き、ナタの”背”やハンマーで叩き骨、スジ、身を潰す。(可能な限り骨が粉々になるように叩き、すり身状にする)

3.すり身状にしたアオダイショウと味噌を練り合わせる。配合は感覚で、ヘビ:味噌=5:1程度。味をみながら調整する。

4.味噌と混ぜたすり身を串に包むように巻きつけて、炭火で20分ほどじっくり焼く