大鳥のこと

縄文式住居を彷彿させる山奥地域の知・技の結晶、ぜんまい小屋。―草木資源で大鳥の人たちと小屋を建てる―

大鳥を含む東北の山間奥地に暮らす人々は、自然資源のみを使って山の中にぜんまい小屋という簡易的な小屋を建てていました。

毎年5月~6月になると夫婦・家族で1ヶ月ほど小屋に寝泊まりしながら早朝・朝・昼と山を駆けまわって大量のぜんまいを採り、茹でては干すことを毎日繰り返す。最初は手前の山、段々に奥山へと範囲を広げながらこつこつ採集し、干し上げたぜんまいは延べ200kgにも上る。シーズンが終わり、集落の仲買に販売すると、100万もの稼ぎになることもザラにあったとか。最盛期には13軒もの小屋が大鳥の奥山に点在し、互いの縄張りを守りながら、時に幼い子供を連れてまでぜんまい稼業に勤しんでいた。が、とんでもなく過酷な労働なことと、安定した街場の職と相対して、誰も後継ぎは求めなかった。

ぜんまい小屋は、沢などの水場が近く、陽が当たる平らで広い干し場がある山の中に建てられていた。無論、ぜんまいが近くに生えていることが絶対条件である。柱・横木はナラ・イタヤ、棟木はミズキ、結束はマンサク・藤の蔓、屋根は茅・柴といった山にある材料を現地調達し、経験に裏付けされた頭の中の設計図を元に組み立てていく。ナタ、ノコ、チェンソーを使い、妻に少し手伝ってもらいながら1日目で骨組み、2日目で屋根を葺いてしまう。入口には筵を下げる、入り口の前に側溝が掘って雨水が小屋内に入ってこないようにするなど、細かい工夫が施されていた。

小屋内の床は茅や柴敷きの上に筵が敷かれ、その上に布団を敷いて寝泊りをする。奥には食器や衣類などが置かれていた。入り口近くには囲炉裏が掘られ、背負い上げてきた米・味噌・缶詰・酒など共に、採集した山菜や釣った岩魚を煮炊きして暮らした。ぜんまい採りをするのに必要な装備としてテンゴ、バンドリ、ナタ、カッパ、タカツメ(金かんじき)は勿論のこと、干されたぜんまいが入った大きな南京袋、その他カンテラなどの日用品も置かれていた。小屋の外には薪、カマド、ナヤ(黒いシート)、桶、スコップ、バケツなどが置かれ、ぜんまいを茹でたり干したりする場所になっていた。時代が下って、屋根はトタンに、囲炉裏は薪ストーブに変わっていったが、根本の暮らし向きは変わらなかった。

電気・燃料・電波もない、深山幽谷の中で営まれていた約一ヶ月の生活。滑落の危険を感じることも、ヘトヘトになって重たいぜんまいを背負い上げる苦しさも、面白いように釣れる岩魚も、動物たちとのふれあいも、まぶしいくらいの星空も…。余所では決して体験できないドラマがそこにはあったのだと思う。経験者たちから聞かせてもらった苦労話、笑い話、自慢話の背景に、そんなことを感じた。

平成18年を最後に大鳥で姿を消してしまったぜんまい小屋。自然資源のみで小屋を一つ建てる、その生活技術をどうしても残しておきたくて、制作過程の中で語られる言葉を記録しておきたくて、平成30年6月に、地元の方々・有志の協力を得てぜんまい小屋を復元しました。ここでは、その制作工程をご紹介します。

文責 田口比呂貴、イラスト 本間かりん写真 三浦一喜・本間かりん

動画:ぜんまい小屋ができるまで

 約20分の動画。材料の採集から小屋の制作まで。

ぜんまい小屋の構造と手順

材料リスト

使用した道具

メジャー、杭、スコップ、ツルハシ、ナタ、ノコ、シノ、チェンソー、脚立、焼き番線:11番(2.9㎜)、ナイロン紐:5㎜、ワイヤーカッター

 

―骨組みを作るー

まず、建てるぜんまい小屋の床の寸法を測る。今回は縦270㎝(入口・壁側)×横360㎝(屋根側)とし、四隅に目印の杭を打つ。小屋に何人寝泊りするかで大きさは変わるが、この大きさだと道具、囲炉裏を置いて2人が寝泊まりできる。四隅に1個ずつと、短辺(入口・壁側)に135㎝間隔で1個ずつ、長辺(屋根側)に90㎝間隔で3個ずつ、計12個の穴を掘る。直径30㎝、深さ30㎝程度。道具はツルハシ、スコップを使った。

次に、屋根の骨組みを作る。ムナギの中心を支える木を、2本のサスを重ね合わせて作る。ナタで印を付け、チェンソーで受けのくぼみを作る。木を合わせて焼き番線で固定。番線はシノで張りながらねじって絞める。山奥ではナタやノコで受けを作り、藤の蔓で固定していた。

固定された2本のサスを長辺の真ん中の穴にそれぞれ入れて立て、傾倒防止に支えの木を1本ずつサスに立て掛けて紐で縛る。この支え木は残りのサスを組んだ後ではずす。ムナギを乗せるマッカを支点にして短辺の真ん中の穴まで、おおよそ水平にナイロンロープを張り、マッカバシラ(支柱)の高さを測る。測った長さに合わせて木を伐り、マッカバシラを立て、その上にムナギを乗せる。ムナギには”ミズキ”を使う。「火災に遭わないよう」と験を担ぐため。

※マッカ:二股になった部分のこと。

ムナギとマッカバシラ、ムナギと固定された2本のサスの接点を焼き番線で固定。

次に、屋根側の穴に5本ずつサス(垂木)を入れ、ムナギに立て掛ける。サス同士が平行になるよう(ツラ位置が合うよう)角度や太さを気に掛けながらサスとムナギを焼き番線で固定する。穴は石・土を被せ、踏み固める。

次に、サスとヨコドウ(横木)を組んでマンサクを使って縛るが、マンサクを縛れる状態にするためにはねじって柔らかくする必要がある。マンサクの枝の細い方を足で踏んで固定し、手元で数回ねじる。更にねじれた部分を踏みながら、マンサクをねじる。これを繰り返して、サス・ヨコドウにピタッと掛けられるくらいの長さになるまでねじる。ねじると内側の繊維が見え、たやすく曲げられるようになる。また、乾燥していると固くてねじりにくくなるので、使う直前に採集するのが望ましい。

サス・ヨコドウにマンサクを掛け、引っ張りながら細い方を軸にして太い方を2度回し、更に太い方だけをもう一回ねじって絞め、緩まないようヨコドウかサスに掛ける。余った部分は切り落とす。乾燥すると、更に締まる。

ヨコドウは片屋根5本ずつ、計10本。下からヨコドウを掛けていき、サスとヨコドウが交わる部分は全て結束する。結束されたヨコドウを足場にしながら上部のヨコドウを掛けていく。

サスのマッカ(交わった部分)にマシムナギ(増し棟木)を乗せ、ムナギとマシムナギをマンサクで固定。マシムナギをすることで茅を平らに葺くことができる。

サス、ムナギ、マシムナギの余分に飛び出た木は、チェンソーで切り落とす。

入口・壁側に3本ずつヨコドウを掛け、マンサクで固定。人が出入りする入口は空けておく。屋根の内側には斜めにスジカエを掛け、マンサクで固定する。小屋が積雪などで潰れないようにする補強。

 

―茅を葺く―

大よそ250束の十分に乾燥したカヤを、屋根に立て掛けるように隙間なく並べる。次に、カヤの真ん中あたりにオウジを掛け、3ヶ所ずつナイロンロープでヨコドウとオウジを縛る。カヤを挟んで固定する格好となる。オウジが隠れるか隠れないか程度に2段目、3段目のカヤを上から被せて葺き、同様にヨコドウとオウジを縛る。

屋根に上がり、オレガヤ(カヤを折ったもの)の折り目をマシムナギに掛ける。雨が漏れないよう3重にも4重にも葺き、葺いた場所にオウジを掛け、ヨコドウと縛る。山奥で、茅が小屋近くにない場合は葉が付いた柴で屋根を葺いた。

 

―囲炉裏を作る―

サスなどの切れ端から長さ50cm、直径10センチ程度の木を4本準備。それぞれの木の両端10㎝程度のところを、段差ができるような形で縦・横から半分ずつチェンソーで伐り、木と木が重なり合うようにする。最後に、小屋内の囲炉裏を設置する場所の土を軽く堀り、4本の木を組み合わせて置いて砂を入れる。

 

参考文献:『山に生かされた日々―新潟県朝日村奥三面の生活誌』山に生かされた日々刊行委員会編集発行

参考映画:『越後奥三面 山に生かされた日々』民族文化映像研究所 1984年

『ぜんまい小屋のくらし』民族文化映像研究所 1984年

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