大鳥のこと

寿岡集落 -学校、会社、郵便局、神社…拠点がいっぱい。大泉鉱山選鉱場と共に歩んだ村-

旧朝日村の中心地から県道349号線の山道を車で20㎞ほど走らせると大鳥に到り着く。集落に入る手前には荒沢ダムが広がり、ダムが満水になる5月下旬には木々が水面から生えているような風景に出会える。

『繁岡』と書かれた案内標識を見ながらT字路を右に曲がり、河合橋を渡って道なりにいくと、寿岡集落へと繋がる。右手に水力発電所の施設が見え、敷地の脇には湯殿山神社信仰の石碑がある。目先、右手に橋があり、渡ると桧原林道へと繋がる。かつてパルプ用の木の伐採、搬出に使われた林道である。更に道なりにいくと廃校を活用した大鳥自然の家がある。春~秋は子供たちがカヌーや魚のつかみどり、トレッキングなどでここを拠点に自然体験学習をする。大鳥地域の運動会や敬老会、大鳥音楽祭もここで行われる。

自然の家周辺から民家が広がり、公民館、防雪センター、天照皇大神社、弥勒堂、簡易郵便局など暮らしに関わる施設がある。そのほか、主に除雪/水力発電所の維持管理の仕事をしている大鳥振興企業組合や大泉鉱山選鉱場跡地、自然の家キャンプ場があり、橋を渡ると松ヶ崎集落へと繋がる。この橋の下を流れるのは西大鳥川で、生活用水や田の水として利用されている。この一帯が寿岡集落で、明治中期頃までは橅平(ブナダイ)と呼ばれていた。一面にブナ林が広がっていたことからその名が付いたのだとか。

鎌倉時代初頭、工藤大学の後を訪ね落ちてきた三浦平六兵衛義村が開墾したことで寿岡集落が始まったと言われ、当初は選鉱場付近の※村表(山の上)に居を構え、”平六山ひかげ台”と呼ばれていたそう。とはいえ三浦義村は鎌倉時代初期の有力御家人であり、大鳥へ来たということは考えづらい。恐らく、家臣や傍系が落ち延びたのであろう。

※越後に近い寿岡部落の沢端を、部落民は”村表”と呼び、大鳥から5km山を下った上田沢集落を”村裏”と呼んでいるが、これは長い間越後とのみ往来して、その他とは交通しなかったということをよく表している呼び方であると思われる。

明治初頭~昭和54年までの約100年間、大鳥に鉱山があった。昭和期には選鉱場が寿岡に置かれ、大鳥から8㎞ほど山奥にあった採鉱場から銅・鉛・亜鉛などの鉱石が、物流専門のロープウェーのようなもの(搬器)で寿岡へ運ばれた。選鉱場で石を砕いて選別をしたら搬器で上田沢集落まで運び、そこからトラックで秋田の発盛精錬所送られていた。鉱山に関連して荷運びや炭焼きなどの仕事もあり、売店は4軒、診療所、散髪屋、銭湯、映画上映もあった。最盛期では1,500人もの人が大鳥に暮らしていたこともあり、当時の賑わいは凄かったと地元の人は言う。

寿岡には天照皇太神社があり鎮守の神として祀られているが、かつては”山神社”もあった。その名の通り山の中にあった神社で、山の神様を祀っていた。月の十二日は「山の神の日」として山仕事を休む風習があったり、熊狩り衆は出発と帰着の際に五色の幣をつくり、祈願と感謝をささげていた。また、毎年12月12日は”山の神”の日で、前日の晩から翌朝まで”夜籠り”をし、男衆が社殿内で酒飲みをするのが慣わしだった。人手不足と高齢化で、山神社の雪下ろし等の維持管理が難しくなったことから、昭和中期に水上神社に合祀し、社殿は取り壊された。

※山神社は繁岡集落と寿岡集落の間にある”中山”の山中にあり、寿岡が管理していた。

大鳥自然の家は1980年代までは大鳥小・中学校で、近くには僻地教育にきた先生のための教員住宅もあった。春にぜんまい採りに行く親の子は、山小屋に連れていかれるので学校は”ぜんまい休み”になったり、学校行事で山菜を採ったり、秋の遠足では河原で芋煮会をやったり。地域の仕事-行事と学校は密接でした。更に時代をさかのぼり、明治~戦中までは尋常小学校の分教場が近くにあったが、そこは元京都三宝院末当山派修験宗長久院という山伏寺だった。仲山大地一家が棲んでいたそう。徐々に姿を消していくが、タヨ様(神官)や山伏、お坊さんなど神仏を扱う人が一つの地域にいた、というのはとても興味深い。

※鳥瞰図作:本間かりん

■参考文献

『神社史4』朝日村

『湖底の青史』佐藤松太郎

『大泉鉱山誌』朝日村

『大鳥部落覚書』五十嵐文蔵

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