大鳥のこと

シバグルミ~山の舞茸を崩さずに持ち帰る業~

山中を歩いていると、「おや?」と不思議な香りに包まれることがある。辺りを探し、ナラの木の根元に舞茸を見つけると、思わず舞い踊ってしまうような気持ちになる。昔の人はうまく名前を付けたものですね。一度食べると、強すぎない上品な香りの虜になる。「見つけたはいいども、テンゴに収まらねぇほどえっぺぇあってなぁ!持って帰れねぇわけや。」なんて嬉し困った世間話を、大鳥で何度も耳にしてきた。そんな時は第一にテンゴに入る分だけを背負って車に置いて、すぐにまた残りを回収しに行くんだぞ、と山の舞茸を見たこともない僕に教えてくれる。山に舞茸を放置しておくと誰か採るかもしれないし、猿にイタズラされるかもしれないのでオチオチしていられないのだ。現代社会は山奥でさえ忙しい。

一昔前の林道もマイカーもない時代は、見つけたキノコに柴を立てて(=”柴立て”と言う)おけば、地域内の他の人は採らないルールになっていた。そして、テンゴに収まらないほどの舞茸も、“シバグルミ(柴包み)”をすれば目いっぱい、形を崩すことなく背負って帰ることができた。“シバグルミ”というのは、舞茸を柴で俵状に包む技術のことで、現在これが出来るのは、大鳥に5人といない。『これは記録しておかないと!』と思い、さっそく寿岡集落の三浦義久さんに声を掛けさせてもらって取材させてもらった。

軽トラックでズンズン森に入っていき、道端のトリキ(=クロモジ)を10本ほど調達。ネジキ柴(=マンサク)は義久さんが事前に用意してくれていた。「トリキは軽いし曲がるから良いな。葉枝のほうは簡単に折れないんだ。葉っぱはつけたまま。これがクッションになるからな。なにせ舞茸は中で動くと崩れる。トリキで包んだらネジキ柴でギュッと縛ってや。そうすると、崩れずに持っていかれるんだや。」車中、義久さんの丁寧なレッスンにノートを走らせながら、実物を見たことがない僕の頭の中では義久さんの言葉をひたすらイメージ化しようとしたが、出来なかった。

森の平らな場所を見つけるとさっそく、“シバグルミ”を始めてくれた。トリキは”包むため”、 ネジキ柴は”縛るため”にそれぞれ使われ、舞茸は崩れることなくギュッ、ギュッと俵状に包まれた。10分も掛からず出来上がった柴包みは、葉がクッションとなって舞茸を包み、軽くて水滴もある程度防ぎ、大きさは自由自在。山によくある資源のみを使う、無駄のない形の“柴俵”だった。「もう少し格好よく包まれるんだけどなぁ。俺、力もねぇし、そこまではされねぇ。そして、昔はこの舞茸の3倍も包んだわけや。今回のシバグルミは小さいども、もっと大きくして背負っていくわけやな。」という三浦義久さんは御年86歳。“シバグルミ”の背負い姿がとても格好良く、お似合いだった。

取材日:2019年9月28日 写真・文:田口比呂貴

シバグルミのやり方

準備するもの

  • トリキ柴(クロモジの柴木)10本程度
  • ネジキ柴(マンサクの木)2本
  • バンドリ
  • 荷縄

シバグルミの手順

  • 50㎝程度の間隔で、ねじったマンサク2本を並べる。
  • 2本の中央を起点にして、マンサクの上に横に枝葉のついたクロモジの柴木を、根を互い違いにしながら並べる。
  • クロモジの柴木が並べられた箇所の中央に舞茸を並べる。舞茸同士を重ねるときは、ヒダの部分を合わせる。
  • 横に並べたクロモジの柴を、手で押さえながら左右から中央に包みこむ。
  • マンサクで一本ずつ絞めながら縛る。俵状になる。
  • バンドリを背負い、荷縄を首からかけてシバグルミを背負う。※シバグルミをすると、背負って運んでもクロモジの枝葉がクッションとなり、舞茸が崩れにくい。※舞茸以外では、シシタケでシバグルミをする。形が崩れやすいキノコに向く。

山のめぐみ図鑑

マイタケ|舞茸 メェタケ

大鳥では訛って"メェタケ"と呼ばれ、「出る木は親子でも教えるな」と言われるほど大鳥では貴重とされる。 …

お買い物

舞茸

9月上旬~下旬頃まで、ミズナラやクリの大木の地際に群生するのが舞茸。味も香りもとても良く、お金にもな …
500g|4,000円