手料理が旅館と身体をつくる。―もだし料理の取材を通じて― 旅館朝日屋女将 佐藤ゆきさん
佐藤ゆきさんは、大鳥地域繁岡集落の出身。中学校を卒業してからは家の農業の手伝い、冬は編み物をして暮らした。旅館朝日屋の長男、佐藤征勝さんとの結婚を機に旅館で働き始め、半世紀もの間、厨房に立ち続けてきた。山菜・キノコなどの田舎料理、馴れずしや笹巻、お餅、漬物といった伝統食は、親や地域から受け継がれ、要領をえたゆきさんの掌で今も再現されている。あっけらかんとした人柄と素朴な手料理に胃袋をつかまれた釣り人たちが毎年のようにお土産を持っては訪れ、元気になって帰っていく。
今回は、正月料理で使われてきたもだしの料理を取材しながらお話を伺った。文章を書くにあたって、大鳥に住み始めた20代の頃の僕に毎晩のようにご飯を食べさせてくれた記憶が甦った。山の恵みを得る苦労、処理をして食卓に並ぶまでの手間暇を知った今だからこそ、育ててくれた親のように感謝したい人になっている。
※もだし:ナラタケのこと
※レシピについては、もだし(ナラタケ)料理 -酢の物、けんちん、納豆汁- 旅館朝日屋女将 佐藤ゆきさん をご覧ください。
取材日:2019年11月25日
昔から大鳥ではもだしは食べたもんだっけな。秋に採ったもだしすぐに塩漬けしないと悪くなるんだ。やわらかいキノコだから、なめことは違うんだな。それを水で戻して使うなや。これはもだしの酢の物。朝日屋の『秋御前』でもつくってたんだ。大根おろしときゅうりと、砂糖を和えて…。きゅうりは塩もみしているから、和えるときは塩は入れなくていいの。すんごくしょっぱくなるから。酢には塩がすごく効くなや。そしてな、餅を食べるときは酢の物があるといいなや。胃さ良いために。だから昔からお正月には酢の物。『氷頭膾』って、鮭の鼻の軟骨を薄く切って酢の物つくるんだや。コリコリして美味しいだども、あれは面倒くさくてな。
これから納豆汁もつくるぞ。大根と人参とカラトリの茎と。ごぼうも入れたら匂いも良いんだ。それと、豆腐かあぶらげを入れて。どっちでもいいども、今回は豆腐にして。最後に納豆とネギと、醤油をちょっと入れて出来上がり。納豆はすり鉢で擦って食べるんだども、めんどくせぇから適当に。おらいの息子だば丁寧なんだ!だからおれと合わねぇ。 一緒に料理するけど、いつも言われてるよ。「かぁ(母)とは合わねぇ。」って。笑
あと、正月はからかい(乾燥させたエイ)も煮るな。でもや、今は高いっちゃ!ちっちゃい袋で1,600円もするんだー。あとはぜんまいを煮たり、タラの子漬けつくったり。大鳥は山だども、海もわりと近いもんだし。これからの季節はぬか漬けをやるぞ。外に干しておいた大根を漬物にして、常連のお客さんに送ってやるんだ。「ゆきさんの漬けたぬか漬けが欲しい!」って絵を描いてる先生が言うわけやー。それが一番美味しいんだとや。自然食なんだし、ぬかで漬けてるんだしな。
おれはもう73になるども、結婚してから50年、まぁ二人とも一回も入院も点滴もしたことなくてきてるな。この頃は腕が痛くて上がらなくなってきたども…。やっぱり“食”がちゃんとしてる人は健康なようだ。私はカップラーメンとか既製品は滅多に食べなくて、いつでもお浸しとか煮付けとか魚とか、自分でつくったもの食べてるろ。身体さ良いんでねぇかなーって思ってんなや。“ほんだし”は魚だから大丈夫だっていうけど、おれは煮干しでしてる。そうするとサッパリした味になるんだ!けど、慣れれば美味しいな。“めんつゆ”もみなおんなじ味になるろ。おれ、あれ苦手だなや。あれは甘いろ。1回や2回は本当に「うめぇ!」って思うなや。でも、何回も使ってると飽きっぞ。おれはみな醤油だけでやってる。でもや、そんなことも言ってられねぇ。お客いっぱい預かってるときは、やっぱり様々な人がいるから使うどもな。冬は家族ばっかりだから使わないようにしてる。焼き干しを買って2~3匹入れて白菜汁とかつくるなや。身体に良いかなと思ってやってる。
おれが朝日屋にきた頃は、自然食みたいな料理をやりたいと思ったんだっけ。「僕が(お金)出してあげるからやれー。」ってお客さんに言われたこともあったけど、やらないでしまった。あの頃は人がいっっぱい来たんだものー!発電所建てる時で、工事の人が20人って毎日泊まっていたんだ。土日も関係なく。それに登山の人たちが店の前に80人も並ぶんだし。「ほらきた!」ってなるとみんな店さ行ってバッチ売ったりはがき売ったりラーメン出したりしてや。いそがしい!いそがしい!でも、身体が丈夫だったからなー。入院もしたことないし、お産だって産む直前まで働いたし。車で行ってる途中で腹痛くなって。そしたらその車が途中でパンクしてや。何キロも離れた自動車屋にきてもらって。そうして生んだんだ。でも身体は丈夫だったからな。朝日屋のおじいちゃんも言うんだっけ。「うちのゆきだばよく働くもんだ」ってな。
文責:田口比呂貴 写真:植松純
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