【山菜料理取材記】春に採った山菜を、冬にいただくために。おばあちゃんたちに山菜の採集/保存/料理を習う。
プロローグ
雪がちらつく日。早朝から幾分か積もった雪をどけるために走るタイヤドーザーの音が、積もった雪に吸い込まれていく。「こんな雪積もったのは20年ぶりだな。」と話す除雪隊の人たちも、2月下旬に差し掛かり、少し穏やかな表情をしていた。
ちゃんとお願いをして地元の人に山菜料理を教えて貰うのは今回が始めて。取材協力してくれたのは大鳥地域、繁岡集落の工藤静代さん(以下、静代さん)と、寿岡集落の三浦勝子さん(以下、勝子さん)。場所は静代さん宅をお借りした。午前10時、「おーい!入るぞー!」と言いながら部屋の戸を開けると、「まず寒いはけ、コーヒーでも飲もうで。」と、薪ストーブの上で沸騰したやかんのお湯を注いで迎えてくれた。テレビには平昌五輪でカーリング女子が映ってて、ちょっと応援したり、雑談したり、お茶菓子を食べたりしたりして、体も徐々にあったまる。
「はて、段々にやっか。」と声を掛けた静代さんが台所に向かい、前日から塩抜きしていた山菜を用意してくれた。この日料理してもらったのはぜんまい煮、イタドリの油炒め、フキ煮、わらびの味噌汁、赤こごみの白和えの5品で、それぞれ順番に作ってもらった。
【取材させて頂いた料理のレシピ】
干しぜんまい煮 -貴重なぜんまいは具材を加え、増やして食べる-
イタドリの油炒め -大鳥流のシンプル調理-「だけどほんとは唐辛子を入れるといいんだぜ。それにつゆの味を沁みさせると良いってな」
わらびの味噌汁 -味噌は3年ものが一番うめぇって言うっけっちゃな-
フキ煮 - 都会の人はや。具増やすために人参入れたりさつま揚げいれたりや、そうしてもいいあんや。-
赤こごみと胡桃の白和え -白和えは昔のごっつぉだな。味を濃くしねぇば旨くねぇあんや。-
ぜんまい煮を作りながら。
「ほら、ぜんまい。この前太いな持ってきておいて今日は細いなって言われるとわりぃと思って。」と勝子さんが冗談を吹っ掛けると、「でも、あんまり立派なもの写しておくじゅと、向こう(お客さんの手元)さいった時に「細いぜんまいだ」って言われるとわりぃしな。」って静代さんが押し問答のように冗談を言う。「しばどうすればいいじゅ?」なんて。僕からは”普段通りで”とお願いしていたが、写真映えを気にして立派な山菜を選んでくれていたことが嬉しかった。
「ぜんまいばっかりでは都会の人は喰わねぇんだ。いろいろ具入れねぇば。ぜんまいばっかりだと高くてな。だども俺はや、色んなもの入れねぇで、このまま食べてぇ人だな。胡麻油入れたりオリーブオイル入れたりしながらな。」勝子さんの言うように、乾燥ぜんまいは山菜の中でも高級品。地元の産直でも100g 1,500円程度の値が付く。「田口くん、それ書いたほうがいい。地元ではこればっかりで。味はまた違うって。笑 都会の人はや、具増やすためにぜんまいだとコンニャク入れたり。フキにさつま揚げ入れたりニンジン入れたりや、そうしてもいいあんや。ドンゴイ(イタドリ)だって鰹節と唐辛子いれて、さつま揚げ入れてもいいし。」と静代さんが付け加える。今回作ってくれたぜんまい煮はニンジンと油揚げ、糸コンニャクを入れてくれた。色取り鮮やかで、食欲を誘う。
「俺も子供のころはぜんまいだがし、親が作ったものは他の具入れるもんだっけ。なんでじゃねぇ。だって山のモノは高いろ?だから他のものを入れていっぱい増やすあんや。おらいの実家は羽黒の理髪店やったんや。そこさ5~6人も見習いの人が住み込みでいたんだし。だからそうやって増やさないと大変なわけや。」静代さんのお父さんは山菜採りが好きな人で、遠くは大鳥にも行ったりしてはドサッと採った山菜を筵(むしろ)に広げ、知人に電話を掛けては配ったり、住み込みの見習いに食べさていたそう。
そういえば大鳥の山菜料理の味付けは殆ど醤油ベースである。戦後の食糧難時代を考えると、畑の大豆で作った手前味噌はあっても、醤油を手に入れるのが難しかったんじゃないか。昔から山菜の味付けは醤油だったのか?と疑問に思って聞くと、「そうではねぇや。味噌は醤油になるくらい、古しくなるまで置いておくんだはけ。」なるほどと思える答えが静代さんから返ってきた。
左から時計回りに、わらびの味噌汁、クルミ寒天、ぜんまい煮、フキ煮、イタドリの油炒め。
料理が一通り終わると、作った料理も並べてみんなで昼ごはん。ご馳走を食べながら、山菜採りに行った話など、大鳥で経験してきたことをいっぱい聞かせてもらった。
山菜は多年草なので根を張り、毎年同じ場所に生える。「根っ子あるんだし。だども、あんまり採ると大きくなれねぇ。根っこが硬くなってな。やっぱりそれだけ、山の中の腐葉土が生きてるあんでねぇ。腐葉土それだけ肥やしなるってことだろ。」と静代さん。植生を知れば当然の話ですが、都会育ちの僕にとっては食べ物が毎年勝手に山に生えてくるというのがスゴイことだと思う。大鳥周辺は落葉広葉樹林帯。ブナなどの森の樹々は、晩秋になると葉を落とす。その葉は、冬の数メートルも積もった雪の下で徐々に腐葉土に。次の春には土の養分を吸収し、立派な山菜が生えてくる。
5月に入ると、陽が上る前に起きてカッパを着、山菜採りに行く大鳥の人たち。早朝に行く理由は主に2つ。一つは、現在は昭和の頃と違って、街からも山菜採りに来る人も多いので早い者勝ち、といった感じになっているから。勝子さんは「いつでら行ってたらみな採られるんだもん。」と言う。もう一つは、日中は暑く、汗をかいて余計に疲れるから。これは本当にそうで、日中に山菜採りをして夕方に帰ってくるものなら、日に焼けて疲れが倍増するよう。ちなみにカッパ着る理由は、早朝だと草木の朝露で濡れるから。
山菜を塩漬けする量。
採ってきた山菜は天ぷらやお浸し、お汁などで旬のうちに食べもするが、越冬用として大量に保存もする。方法は乾燥か塩漬け。大鳥ではぜんまいと赤こごみは乾燥で、それ以外は塩漬けにする人が多い。静代さんの家でも旦那さんと協力して山菜を採り、種類ごとに樽を分けて塩漬けにしている。「ドンゴイ(イタドリ)は200束くらい。やっぱりこっちは冬のお土産とかな。親戚にくれたりとか。あと、欲しいって人にやってるあんや。大体半分くらいは決まったとこさ出さねばねぇこともあるな。あとそれ以上は増やしたくねぇども。フキだって、まず100束くらいは漬けるや。赤こごみも漬けるな。あと、わらびは200束、300束って漬けるな。採っただけ漬けておくんだし。あとは漬けるってほどでもねぇ。手さ掴まったものばっかり5~6束くらい、アザミ漬けておく。アザミもうめぇぜ。サクサクって。あいこも漬けるとはいいって言うっけな。真っ青なるんだっけ。旨みはねぇろうな。シドケもや、漬けておくんだっけぞ。」大鳥で言う1束は400gが基本なので、イタドリは80kg、フキは40kg、ワラビは80~120kgほど漬けている。静代さんは販売したり親戚・知人に送りもするが、年中行事や来客などにも使うのでスカッと無くすようにはしないのだとか。
山菜採りの思い出。
「林道に入ってずーっと行くと、沢あんなやな。旦那に連れていかれてその沢の上さ行ったことある。そうして、あと堰堤だっていうところでテンゴ置いて休んでたんや。してちょっと脇のほうが窪みあるんだっけ。『何かあっかな?』と思って行ったば、腰テンゴさ入らねぇほどあんな、ぜんまい。それ採って戻ってきたばな、『わね、どうやって背負っていく?』って言われた。笑 そうしておいて、がっちりテンゴ縛っておいて、転がして落としてや。そうして採ってきたことある。」山菜は男が奥山で、女が集落周りで採る。さらには乾燥・塩蔵も女性が面倒を見る、という大まかな役割分担はあるけれど、夫婦で山菜採りをするのも大鳥ではよくみる光景。
山談義は続く。「俺は昔だばメェタケ(舞茸)採ったこと、あれは忘れられねぇ!まだ人が街から来ねぇとき。山道の斜面さ上がろうって言われて這って上がったば、倒れた木さブワァァァァァー…っとメェタケや。」今度は勝子さんが舞茸を採った時の話を聞かせてくれた。
「父ちゃんが具合悪くて行かれねぇんだはけ。『山のどこでらまで行くと、栗の木があっから、そこさ行って来い』って言われて。行ったことのねぇところだども、ちっちゃいテンゴ背負って行ったわけや。いつも行く山のあそこのヒラさわらび畑あっちゃや。」大鳥の人は山の斜面のことを”ヒラ”という。「そこを越えたとこさおっきい杉あっちゃや。そこもずーっと行っておいてな。父ちゃんの言うようにメェタケ探しさ行ってこねばねぇと思って山手側を見たで。はて、ここらへんさナラの木あんどもなって思ったら、5mくらいも上がらねぇとこさ。なんだかこう、ワカワカってものがあっけぜ。そして上がってみたで。そうしたばメェタケのあることあること。まずそれ採って。して、根っ子さも出ててな。採ろうとしても、テンゴはちっちゃいろ。父ちゃんから聞いておいた”柴ぐるみ”ってな。こう、しんねぇ(硬い)木を何本か切ってテンゴさ立てて、蔓で囲って、キノコを入れて、最後に上に枝葉かけて。キノコが動いて壊れねぇように、痛まねぇように。そうして家さ背負ってきたんだ。」テンゴに入りきらないからと簡単に諦めず、”柴ぐるみ”でテンゴの高さを上げて容積を増やす工面をした。素材の木はクルミやナラなどの硬めの木、蔓は山葡萄やアケビ、枝葉はクロモジなど、山にあるものだけを使って。
「そのもっしぇこと。10kgも採ったぞ。」見つけたら嬉しくて舞いあがってしまうほどの美味しいキノコだから”舞茸”、という語源の説が本当か否かはさておき。天然モノは格別な香りがして、地元の人でも中々採れない貴重品。勝子さんも他の大鳥の人も、大量の舞茸をとった昔話はいつも嬉しそうに話してくれる。
取材が終わると、流れでフィギュアスケートを観戦することに。羽生結弦選手がジャンプをする度、「ほいっ!」と言ったり、息を止めたりしながらワイワイ過ごした。「一回目、こんな取材の終わり方もいいかな。」と思わせてくれる見事な金メダルで、今日一日が楽しく過ぎていった。
取材日:2018年2月17日
文:田口比呂貴 写真:伊藤美加
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